dogify OriginalVol.008 · 2026.08.22 · 読了 約4分

書き手を増やしても、
文章はよくならない。

AIエージェントを4体から8体に増やした。増やしたのは、書く担当ではない。自社でAIだけの編集部を2つ動かしていて、4体のときに何が足りなかったのかを書きます。

8体にした理由は、書く力が足りなかったからではない。むしろ逆で、書く担当をどれだけ調整しても直らないものが2つ残った。

4体では、事実が合わなかった

私たちは自社で2つの媒体を運営している。AIについて調べに来た人向けの「AIモノサシ」と、SNSや広告の現場で考えたことを書く「NISHIMURA & Co.」。どちらも記事の制作はAIエージェントだけで回していて、人が入るのは公開してよいかを決めるところだけだ。

最初は4体だった。ネタを拾う researcher、企画を選ぶ editor、書く writer、検証する checker。役割としては、これで足りているように見える。集めて、選んで、書いて、確かめる。人の編集部でも、だいたいこの並びになる。

それでも、出てくる記事は事実が合わなかった。

checker はいる。にもかかわらず合わない。原因を追っていくと、checker にできることの範囲がはっきりしてきた。checker は、書かれたものを検証している。書かれた文が正しいかどうかは確かめられる。ところが、writer が最初から見ていない情報については、何も起きない。存在しない記述は、検証の対象にならない。

実際にあった間違いはこういうものだった。ある会社の料金を「非公開」と書いた。料金ページを開いていなかっただけで、実際には公開されていた。checker は「非公開と書いてある」ことは確認できる。しかし「本当に非公開なのか」を確かめるには、writer が見なかったページを自分で開きに行くしかない。それはもう検証ではなく、取材のやり直しだと思う。

書かれたものは検証できるが、書かれなかったものは検証できない。

正しいが、薄い

だから collector を足した。writer の前に置いて、対象のページを取れるだけ取得し、ログに残す担当にした。writer は自分で探しに行かず、collector が残したものだけを使って書く。検証を後ろに厚くするのではなく、材料を集める工程を前で切り離した。あわせて「非公開」とは書かないという規程も作った。書けるのは「未確認」と、なぜ未確認なのかの理由だけにした。

事実は合うようになった。それでも、もうひとつが残った。薄い。

読めば正しい。どこにも嘘はない。それなのに、読み終わって何も変わらない。世の中にある似た記事と、言っていることが同じになる。

しばらく原因が分からなかった。writer への指示を細かくしても、参考になる記事を渡しても、少し丁寧になるだけで芯は動かなかった。

分かったのは、4体の全員が同じ方向しか見ていなかった、ということだ。researcher は候補を集める。editor は選ぶ。writer は書く。checker は間違いを探す。この並びのどこにも、「これを読んで、読者の判断は変わるか」を問う場面がない。間違っていないかは全員が見ているのに、読む価値があるかは誰も見ていない。

間違っていないことと、読む価値があることは、別々に確かめないと揃わない。

検証と、疑うことは違う

そこで auditor を足した。読者として記事を疑う担当で、1本につき3件以上の指摘を出す。そして、通過を宣言できないようにした。「問題ありません」と言う権限を持たせていない。良し悪しの判定ではなく、疑いを出し切ることだけをさせている。

checker と auditor は、外から見ると同じ「チェック係」に見える。最初は私たちも、1体で足りると思っていた。

分けてみて、別の仕事だと分かった。

checker がやっているのは照合だ。書かれた事実と、collector が残した一次情報を突き合わせる。合っているか、合っていないか。答えが出る。auditor がやっているのは懐疑だ。読者としてこの記事を読んだとき、どこで引っかかるか、どこが物足りないか。答えは出ない。指摘が出るだけだ。

これを1体に兼ねさせると、照合が通った時点で満足してしまう。事実が合っている記事に対して、そこからさらに「でも、これを読んで何が変わるのか」と問い直すのは、同じ流れの中では起きにくい。自分が合格を出した相手を、直後に疑い直すことになるからだ。

もうひとつ、writer と checker と auditor は別のモデルで動かしている。同じモデルで揃えていたときは、書き手が見落とすところを検証も同じように見落としていた。組み立て方の癖が同じだから、盲点も同じ場所にできる。検証者を立てているつもりで、実際には同じ視点を3回通しているだけだった。

増やしたのは、書き手ではない

4体から8体になった。足したのは collector、auditor、analyst、strategist の4体で、analyst は数字を取り出してログに残すだけの担当、strategist は打ち手を提案するが記事は書けない。

足した4体に共通しているのは、全員が書けないことだ。質が低いという問題に対して、書く力を足すのではなく、書かない役を足した。

そして8体それぞれに、できないことを決めている。researcher は選べない。editor は書けない。checker は書き換えられない。auditor は通過を宣言できない。analyst は解釈できない。役割を決めるだけでは足りなかった。禁止まで書かないと、有能なモデルは越えてくる。頼めば全員がなんでもできてしまうので、放っておくと8体が実質1体に戻る。

人の組織なら、越境は歓迎されることも多い。気の利いた人が隣の仕事を拾ってくれる。AIでそれをやられると、独立性が消える。checker が親切に原稿を直した瞬間、その記事を検証した者はいなくなる。

私たちがこの2つの媒体を自社で回しているのは、クライアントの現場に入る前に、自分たちのところで一度壊しておきたいからです。