AI導入は、
選定から始まりません。
「何から始めればいいですか」。この半年、いちばん多くいただいた質問です。
ほとんどの場合、話はツールの選定から始まります。ただ、私たちが現場で見てきた限り、そこから始めた会社は、たいてい止まります。
たいていの場合、話はツールの比較から始まります。ChatGPTかGeminiか。月いくらか。どれがいちばん賢いのか。私たちも聞かれれば答えます。ただ、そこから始めた会社が定着したところを、あまり見ていません。
これまで28社の現場に入ってきました。うまくいった会社とそうでない会社を分けていたのは、ツールの選定ではありませんでした。
ツールを選ぶ前に、止まります
選定から入ると、こうなります。契約をする。アカウントを配る。使い方の説明会をやる。ここまでは進みます。ひと月経って開いているのは、導入を決めた本人だけになっています。
ツールが悪いわけではありません。いまのAIは、どれを選んでもだいたい動きます。差がつくのは、渡したあとの話です。
なぜ選定から入ってしまうのか。選定が楽だからだと思います。比較表を見れば決まります。金額も出ます。稟議も通ります。判断の材料が全部、外側にあります。
別のコラムで、AIに情報を足すのは簡単で、何を渡さないかを決めるほうが難しいと書きました。導入も同じ形をしています。買うことは決められます。どこに入れるかは、決められません。
「今の業務フロー、書き出せますか」
私たちが最初にやるのは、ヒアリングです。ツールの話はいったん置いて、いまどうやって仕事をしているかを聞いていきます。
このとき、ほぼ必ず訪れる沈黙があります。
いまの業務フローを書き出せますか、とお聞きすると、手が止まります。何をやっているかは分かっています。ただ、順番と、誰が、どこで、何分かけているのかを線にして並べようとすると、出てきません。
これは能力の問題ではありません。毎日やっていることは、体で覚えています。覚えているものは、言葉にする必要がありませんでした。必要がなかったので、誰も書いたことがありません。
ですから、書き出せなくて当たり前だと思っています。ここで「うちは整理ができていないから、AIはまだ早い」と結論を出される会社がありますが、順序が逆です。
書き出せていない状態のほうが、ふつうの状態です。
そして、この作業をやらないままツールを配ると、使う場面が決まりません。使う場面が決まらないものは、使われません。
無駄は、気づかれていません
もうひとつ、ヒアリングをして分かったことがあります。
「困っていることはありますか」とお聞きしても、あまり出てきません。本当に困っていないわけではありません。その作業を無駄だと思っていないので、出てこないのです。
毎週2時間かけて作っている集計表があります。前任者から引き継いだときからその形で、誰も疑っていません。途中で転記が3回発生しています。3回とも人がやっています。話を聞きながら、こちらが手を止めるほうが多いくらいです。
現場の方は、それを問題だと認識していません。仕事だと思っています。
ですから、私たちが受け取るご要望と、実際に手を入れる場所は、たいてい一致しません。言われたとおりに作ると、言われたとおりのものができて、たいして変わりません。ご本人が課題として言語化していないほうが、数としては多いのです。
これは資料を送っていただくだけでは見つかりません。同じ場所で、同じ画面を見ながら聞くしかありません。私たちが現場に入り込んでいる理由は、ここにあります。
経営者だけが、やる気になっています
3ヶ月で止まる会社には、共通した形があります。
経営者の熱量は高いです。本を読まれていて、セミナーにも行かれていて、社内でも話をされています。ここは問題ではありません。むしろ、ここが無い会社では最初から始まりません。
止まるのは、その熱が現場に着地していないときです。
現場を理解しないまま、先に進んでしまう。どの業務にどう入れるかを決める前に、全社に配ってしまう。従業員の側から見ると、自分の仕事とAIがどう繋がるのか分からないまま、使えと言われている状態になります。
このとき現場から出てくるのは「難しい」ではありません。「忙しい」です。使わない理由が、能力ではなく時間の形で返ってくるときは、たいてい、業務のなかに入っていません。
反対の順番もあります。現場が使いたがっているのに、上が決めない。これも止まりますが、こちらは後から動かしやすいです。すでに使う場面が見えているからです。
足りなかったのは、予算でも、ツールでも、リテラシーでもありませんでした。どの仕事の、どこに置くか。それが決まっていませんでした。
最初の1つは、自分の仕事から
では、何から始めるか。
私たちがお勧めしているのは、決める方が、自分の仕事でひとつ動かしてみることです。全社への展開は、そのあとで構いません。
理由は2つあります。ひとつは、自分の業務なら、書き出せなくても中身が分かっていること。もうひとつは、実際に動かすと、どこで詰まるかが分かることです。詰まる場所は、現場でもだいたい同じ場所です。使ったことのない人が配ると、そこが見えません。
そして、ひとつ動くと、次が見えてきます。この作業もいけるんじゃないか、という話が現場から出るようになります。そこまで来れば、あとは順番に広げていくだけです。
AI導入は、選定から始まりません。始まるのは、いまの仕事を一度、言葉にしてみるところからだと思います。そしてその作業は、外から眺めて代わりにやれるものではありません。だから私たちは、現場に入っています。
Q.AI導入は、何から手をつければいいですか。
ツールの選定ではなく、いまの業務フローを書き出すところからです。どの業務のどこにAIを置くかが決まっていないと、契約しても使われないまま終わります。
Q.業務フローがうまく書き出せません。
書き出せないのがふつうです。毎日やっている作業は言葉にする必要がなかったので、誰も書いたことがありません。第三者が質問しながら引き出す形のほうが、確実に出てきます。
Q.全社で一斉に始めるのは、良くないのでしょうか。
最初の1つが動くまではお勧めしていません。決める方が自分の業務で1つ動かし、詰まる場所を把握してから広げるほうが、結果的に速く進みます。
Series — AI導入で詰まるところ(全12回)
Next Step
この設計を、御社の現場で。