GPT-6 Astraになっても、
線は動かなかった。
GPT-6 Astraは、いま最も優秀なモデルだと思う。ただ、上がったのは私たちが元から得意だと見ていた側で、人に残している側は動かなかった。モデルを入れ替えて、何が変わって何が変わらなかったかを書きます。
モデルが上がると、任せられる範囲が広がる。そう考えるのが自然だと思う。
今回は、広がらなかった。
推論の潰し方は、確かに変わった
GPT-6 Astraを触ってまず気づくのは、推論の潰し方と、自分で検証するやり方のレベルが上がっていることだ。途中で筋の悪い方向へ進みかけたときに、進み切ってから間違いに気づくのではなく、その手前で引き返す。結果として、事故りにくくなったという感覚がある。
OpenAIの公式ガイドは、Astraに5つの行動傾向があると書いている。追加情報で結果が変わりそうなときは確認を求めやすい。skillsやAGENTS.mdに書かれた指示に敏感になった。箇条書きや表を多用する。サブエージェントへの分担が控えめになることがある。コーディングでは確認を広げすぎる。
実際に使っていて、どれも心当たりはある。ただ5つを並べて読むと、別々のクセというより、同じ一つのことを言っているように見える。
どれも、指示の範囲が決まっていないと起きることだ。確認が増えるのは、どこまで任せたかを渡していないから。回答が長くなるのは、分量を渡していないから。テストが広がるのは、何をもって完了とするかを渡していないから。ガイドに載っている対処の指示例も、読むと全部そこを埋めにいっている。
私たちの場合、モデルを変えても渡し方は変えていない。何を完成させるのか、どこまで判断していいのか、どうなったら完了なのか。この3つを先に決めてから投げる、という手順は前から同じだった。だから体感の変化も、ちょっと止まるようになったかな、という程度で収まっている。
5つのクセは、モデルのクセというより、渡し方の穴が見えただけだと思う。
それでも、毎日は使わない
優秀だと思う一方で、全部の業務には入れていない。トークンの消費が重いからだ。
性能と消費量を並べて考えると、使わないという判断になる場面のほうが多い。日々回っている仕事の多くは、手順が決まっていて、判断の分かれ目も少ない。数字を取ってきて、決めた形に整えて、出すところまで。こういう工程は、重いモデルを当てても出力がよくなるわけではない。差が出ないところに消費だけが増える。
では、どこで使うのか。skillも前提情報もまだ無い、新しい何かを触るときだ。
このとき、あえて情報を渡さずに投げる。普段は渡す情報を絞って精度を上げているのに、ここだけ目的が逆になる。測っているのが答えではなく、モデルがどこまで自力で立てられるかの方だからだ。手元に材料が揃っていない段階では、そもそも渡せるものが少ない、という事情もある。
先に材料を渡してしまうと、出てきたものが、モデルの力なのか、こちらが用意した材料の力なのか分からなくなる。だから最初の一回だけは、裸で投げる。
5時間の利用制限の残量を見ながらやっている。検証に使い切ると、その後の実務が止まる。優秀さを確かめる作業そのものに、コストがかかっている。
上がったのは、得意な側だけ
得意な領域に限れば、Astraでなくても今のモデルはかなり優秀だと思う。
莫大なデータを分析する。そこからシミュレーションを組む。条件を変えて何度も回して、どの組み方がどう出るかを並べる。この辺りは十分に強い。人がやるより速く、抜けも少ない。広告の配信前に結果を見積もる仕組みも、この延長で動いている。
一方で、企画やアイディアの領域では、まだ人のほうが優れていると思う。ただ、企画という一語のなかでも、できる工程とできない工程は分かれている。
案を大量に出すことは速い。既存の型を組み替えることも速い。過去に効いたものを学習させれば、それに近い形のものはいくらでも出てくる。
弱いのは、その中から選ぶところと、そもそも別の切り口へ飛ぶところだ。画期的なもの、オリジナリティのあるもの、他社にないもの。そこは今のAstraでもまだ届かない。出てくるのは、うまく組み替えられた既知の形であることが多い。
人は、点と点を無意識に線にする。関係のない場所で見たものが、別の案件の企画に効く。ふとした瞬間に思いつく。あれが何なのかを説明することはできないが、起きていることは確かだ。今日この構成が違うと気づいた理由を後から説明できないのに、気づいた事実だけが残る。
賢くなったということは、賢くなった領域があるということでしかない。
だから、線を引き直していない
以前、1つのモデルに寄せない理由を書いた。そのときは、最上位モデルが価格差ほどの性能差を出さないことが理由だった。
今回は性能差が出ている。それでも、選び方は変えていない。
理由の方が入れ替わったのだと思う。前は性能で選ばなかった。今は領域で選んでいる。分析とシミュレーションはAIに寄せ、選ぶ工程と企画は人が持つ。この置き方は、モデルが上がっても動かなかった。
動いたのは、AI側の担当範囲の中の精度だけだ。同じ仕事を、より少ない手戻りでこなすようになった。境界そのものは同じ位置にある。次に境界が動くとしたら、それは処理が速くなったからではなく、いま人しかできていない工程を機械ができるようになったときだと思う。
新しいモデルが出るたびに、どこまで任せられるようになったかを見にいくのは、この境界がまだ同じ位置にあるかを確かめるためです。線が動いていないなら、どのモデルを使うかは、業務ごとに決めればいい話になります。
Next Step
この設計を、御社の現場で。